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自動車の設計はどんな仕事?元設計者が語る本音

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自動車産業は日本を牽引していると言っても過言ではない、重要な産業です。トヨタ、ホンダ、日産と世界でも活躍し、知名度も高いのが日本の自動車メーカー。

そんな自動車メーカーの中枢ともいえる「設計者」とは、実際どのような仕事をしているのでしょうか?

大手自動車メーカーで10年以上設計を務めた筆者が、リアルな本音と今後の展望をご紹介します。

自動車設計者の役割とは?

設計者というと、デスクで一生懸命図面を書いたり、CADをいじったり…

そんな印象が強いかもしれません。

 

でも実は自動車設計者は、結構泥臭いこともやっています。言い方は悪いですが「雑務」も多いのです。

「こんな車にしたい」「この部品はこういう形にしよう」といういわゆる”設計”は、全体の仕事のうち2〜3割程度。

デザイナーとの打ち合わせ、部品メーカーとの打ち合わせ、コストの計算、資料作成、製品不具合の対応など、その仕事は多岐に渡ります。

正直言って「最近設計っぽい仕事してないな…」と愚痴をこぼす設計者もいます。

反面、自分が自由に設計できたり、作った製品が実際に完成したりしたときの喜びは計り知れないもの。

自動車は、いつでも道路を走っていますからね。自分の携わった車を街で見かけると、嬉しくなったり、大変だった頃を思い出したり・・・

 

一旦まとめると、自動車設計者の役割は「自動車のシステムや構造を”設計”する人」ですが、その役割の中に幅広い仕事が含まれているというのが現実です。

設計者は「なんでも屋」!?

大手自動車メーカーでは多くの仕事は細分化されています。

一般的な自動車の設計・開発組織には次のような職種があります。メーカーによって若干異なりますので、あくまでイメージとして捉えていただければと思います。

企画・・・製品の案を企画したり、スケジュールをたてる人

設計・・・システム、構造を設計する人

生産管理・・・製品の生産、金型等を管理する人

品質管理・・・製品の品質を管理する人

購買・・・部品を購入したり、社外メーカーと取引する人

知財・・・特許等、知的財産の情報を管理・推進する人

コスト管理・・・製品をつくる上で発生するコスト(お金)を管理する人

これはあくまで一例で、細かくいうとキリがないほど細分化されているメーカーもあります。

ただ、他の業界でもよくあることですが、設計者は「何でも屋」になることがよくあるのです。

具体的に言うと、設計者なのに生産管理の仕事をしたり、購買の仕事をしたり。

逆に「購買の人が設計をする」ということはほぼありません。

 

ここ最近はジョブローテーションで、全く未経験の部署に異動、なんてことも増えてきましたが、製品のことを一番よく知っているのは設計者であり、何かと頼られてしまう存在なのです。

それだけ設計者は、開発の中枢を担っていて、色々な判断や仕事をしなければならないポジション。

仕事の幅は広く「設計って何?」と考えてしまう設計者もいますが、やりがいの大きい仕事です。

自動車開発の流れと設計者の関わり

ここで自動車設計の流れを簡単に見てみましょう。設計者が机に座って図面を書いているだけの人ではないことがわかります。

製品企画(コンセプト段階)

どんな自動車を作るか。最新技術、トレンド、マーケット(市場)の動向、ラインナップの整理などを考えながら、製品の企画が行われます。

この段階では、製品の構想(コンセプト)が大まかに決定されます。

通常は企画する部署が製品企画しますが、

「こんなのつくりたいんだけど」

という企画部署の提案に回答できるのは設計者だったりするので、設計の上層部や設計者が同席することも。

同時に、全体のスケジュールも計画されます。

私が居た会社では、コンセプトデザインを壁にババババーッと大量に貼り、社内コンペみたいなことをしていたこともあります。

ここは各社の色が出るかもしれませんが、大変でも夢のあるところだと思います。

デザインスケッチの作成

コンセプトを元に、デザイナーがデザインスケッチを描きます。

場合によっては、デザインが先で企画が後だったり、並行に進むことも。

ここでできるスケッチは割と未来的なスケッチも多く、モーターショウに出展されるモデルはスケッチをそのまま再現することが多いです(このとき作られるのは”モックアップ”といい、外観だけ作ったものが多い)。

デザインは会社の役員など上層部が審査して、「合格」したデザインを製品化することが一般的。

デザインの段階では、設計者が全員関わるわけではありません。ただし、メーカーによってはデザイナーと設計者が意見交換してデザインされることもあります。

「こんなスポイラー(ウイング)作れないよ〜!」

「それを考えるのが設計者じゃないの!?」

なんてやりとりも。

ちなみに外装、内装だけにとどまらず、エンジンルームやトランクルーム、メーカーによっては足回りまでデザインが介入します。

美は細部に宿るのです。

実現性の検討(初期検討)

製品の企画とデザインが大まかに固まったら(理想的にはしっかり固めたい…)、実現性の検討です。

例えば「スポーツカーだけど、4人乗りで、スーツケースは2つ積めて、燃費はこれくらいで…」というコンセプトで、本当に作れるのか?ということを検討します。メーカーによっては、設計者がコストを試算したりもします。

ここからは設計者がどっぷり仕事をする場面です。「初期設計」「初期検討」などとも呼ばれ、この検討がいわば自動車設計の「基礎」となります。

実現性の検討に関わるのは、割と腕のたつ設計者やエキスパートのことが多いです。どんな製品でも基礎は大事ですから、初心者が簡単にできるものではありません。

最近はパラメータを入力するだけで簡易的に3Dモデルを作成できるソフトもあります。

しかし、自動車の難しいところは流線型デザインなど曲面が多い部分。

定型的に作れる部分と、難しい部分が出てくるため、まだまだ個人のスキルも重要です。

3Dモデル、図面の作成(設計)

さて初期検討が終わったら、いわゆる”設計”の仕事に入ります。初期検討も設計ですが、個人的にはここが結構面白いところで、大変な仕事でもあります。

昔はドラフターなどの製図器でせっせと図面を描いていましたが、随分前から3D CAD(コンピュータで設計する)で3Dモデルを作るのが一般的です。

簡単にいうと製品の立体データですね。

ここまで検討した材料(コンセプト、初期検討のデータ、コストなど)を使って、3Dモデルをひたすら作っていきます。

ここが設計者の腕のみせどころ、より安く、より小さく、より壊れなく、よりかっこよく…様々なバランスを考えながら設計するのは、大変であり設計の醍醐味。

アイデア、知識、コミュニケーション能力などいろんな能力も問われてきます。

「いきなり3Dモデルから作り始めるやつは素人や!!」

なんてよく言われたもので、紙に”マンガ”とか”ポンチ絵”と呼ばれるイメージ図のようなものを描いてから3Dにとりかかるのが、玄人っぽかったりします(いや、実際そうした方が頭も整理されていいのです)

私の居た会社では、この”マンガ”を描くプロセスがすごく大事にされており、このための構想期間をしっかりスケジュールに組まれていたりしました。

それから大まかな設計だけ設計者が行い、3Dモデルの作り込みや図面作成は「モデラー」と呼ばれるCADの専門員が行うことも。

分業しないと設計者の仕事は増える一方なので仕方ないことかもしれません。

また、メーカーによっては紙の図面を作らないところもあります。3Dに全ての情報を書き込む(3Dアノテーション)ことができるようになってきたためです。

同時にCAE(Computer Aided Engineering)やDA(Digital Assembly)などといった、コンピュータ上でシミュレーションするためのモデルも構築していきます。

ここは設計者が関ることもありますが、シミュレーション専門の要員が推進することが多いようです。

メーカーの選定、コスト試算

上の設計業務の一環ですが、同時に部品をつくるメーカーの選定や、コストの試算を設計者が行うこともあります。

基本的にメーカーを決めるのは購買部門だったりしますが、設計者として「この部品はこのメーカーじゃなきゃつくれない」といったこともあります。

そういう意味で、設計者もメーカー選定に関わることが多いです。

また同時に、コスト試算も行います。いかに素晴らしい部品を設計したとしても、コストが高すぎては問題です。設計者はコストも考えながらバランスをとりつつ設計できるのが一人前ともいえます。

試作、テスト

図面が完成したら、試作、テストを行います。

作った図面をもとに、選定した試作メーカーで試作品を作製します。全ての部品がメーカーで作られるわけではありません。なかには”内製”といって会社内で作製する部品もあります。

試作品を作製したら、テストです。

自動車のテスト項目はこれまた多岐に渡り、走行性能、静寂性、安全性、快適性など様々。

厳しいテストを行い、不具合があったら量産までに修正する、というのがここからの流れです。

自動車はお客さんにとって大きな買い物ですし、ひとたび事故が起きると被害も甚大。

不具合や事故をなくしお客さんに迷惑をかけないようにしたり、命を守るためにも、テストは重要。

テストはテスト部門が行うことが多いですが、設計者も積極的にテストに参加することでよりよい設計ができます。

気持ち悪い音をずっと聴いたり(音響テスト)、240kmでオーバルコース(長丸形でカーブが45度くらい傾斜したコース)を走って気持ち悪くなったり、ドアを1万回開け閉めしたり。

大変なテストもたくさんあります。

ただ、最近では試作レス、モデルレスといって、試作を作らない動きも。

試作を作らない場合は、コンピュータ解析(CAE)によってテストを行う方法があります。

ただし自動車一台分を解析するのは簡単ではなく、まだ試作品によるテストを好むメーカー、担当者も。

解析精度は年々良くなっているので、今後は完全な試作レスも夢ではないでしょう。

量産図面の作成(金型手配)

試作や解析が終わったら、いよいよ量産に向けての図面を作成です。

量産というのは、お客さんの手に渡る製品になるということ。簡単にいうと「設計の最後のイベント」にあたります。

この量産図面で、金型を作製することが多いです。

金型とは、部品を作製するための型。例えばクッキーを作るときの型と同じですね。

金型は一度作製すると修正が大変。そのため、ここまでに検証したテストの不具合対策はしっかりと量産図面に反映する必要があります。

正直、この図面を出すときはお昼ご飯も食べれずに図面を作ることもありました(やっちゃダメ)・・・

※これでも年々働き方はまともになってきています。昔は日が変わるまで仕事してたり・・・

設計者の仕事も大詰め、このイベントが終わるとひと段落…といきたいところ。

量産開始前の確認

設計の仕事を終えてひと段落したいのですが、場合によってはまだ仕事が残っています。

量産開始前の確認、実際の量産ラインで製品がちゃんと作れるか確認するのです。

量産図面を作成し、金型で部品を作ったら、実際に販売するまでに量産ラインで試作のようなことを行います。

なぜなら、金型で作製したばかりの製品や、初めて量産ラインで作製する製品には独特のクセがあるからです。

試作ではうまくいってたのに、量産になったら「あれ?変だぞ?」ということもしばしば。

ここで不具合が発生したら、設計者も工場に張り付いて対応するのです。

こうして様々な工程を経て、自動車はお客さんの元に届きます。

このように本当に地味でお客さんには見えない作業ばかりですが、設計者は最初から最後まで製品に命を吹き込む作業を続けるのです。

自動車設計者に向いてる人、向いてない人

自動車設計はいわば何でも屋。ただいい大学を出て、知識があるだけでは上手くいかないことも。

自動車設計に向いている人は、次のような人です。

・コミュニケーションが上手にとれる

・常に学ぼうとする意識が高い

・人に仕事をうまく頼める

黙々と机に向かう”研究者”的な設計者もいます。

もちろんそういう人の知識も必要ですが、設計者として出世していく人は、上記のスキルを持っている人がほとんどです。

極端な話、車全体の知識があまりなくても、上記スキルがあればある程度出世できてしまいます。

そういう面では、他の職種と変わらないですね。

 

ただ理想としては、車もしくはメカ、何らかの機械好きの方が、結果的に長く楽しく続けられると思っています。

ちなみに、他業種から自動車業界の設計者に転職するのはどんな業界の人かというと。

私の周囲で実際にいた人は、繊維メーカー、電気機器メーカーの人が多い印象でした。

自動車設計の経験がなくても、スキルや経験値があれば採用されるというのがリアルなところです。

自動車設計者の将来性は?

さてそんな自動車設計者の将来性はどうでしょうか?

ここで関係してくるキーワードは「CASE」

「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字からきたもので、もともとはメルセデス・ベンツが発表したものでした。

現在では広く使われるようになり、また一般的にも「今後はこうなるんだろうな〜」と感覚でわかる概念だと思います。

ネットワークで繋がり、自動になり、シェアも当たり前になり、化石燃料が使われなくなる。ものすごい進化が自動車には要求されているのです。

 

そして、ハード面よりもソフト面の重要性がますます上がっています。

ハード面(車体、内外装、シャーシ、など)の設計者は、差別化や自動化の波に飲まれないように、組織レベルで工夫が必要になってきます。

10、20年前と比べると一生安泰なポジションと言えない部分もありますが、ハード設計をしていると嫌でも色んな部署と関係を持ちます。そういう意味では、まだまだ開発組織の中心的存在でもあるのです。

ものづくりの会社では、ハード面の設計出身の社長が多いのは、こういう理由も大きいと思います。

ソフト面(制御、ネットワーク、エレクトロニクスなど)の設計者は、競争がより厳しくなります。とくにネットワークやAIに強ければ、どこでもやっていける人材になり得ます。

ただいずれにせよ言えるのは、自動車業界で経験とスキルを積めば、他の業界への転職は比較的と簡単であるということ。

自動車業界は常に最先端と言える技術を持っていますから、他業種のメーカーからすると「自動車か、すごいね」と思われることも多くあります(あくまで印象ですが)

一生安全な職業はありませんが、これからも市場に求められるのが自動車設計者だと思います。

まだまだ日本を牽引する産業の中心的存在が、設計者

世界企業の時価総額ランキングで、トップ100に入る日本企業はついにトヨタ1社になってしまいました(2021年6月現在)

大丈夫なのかな日本・・・と不安にもなりますが、それでも自動車業界の設計者は、多くの可能性を持っていることは間違いありません。

最先端がゆえに、技術・知識のみならず、想像力、コミュニケーション能力、忍耐力、更にはビジネススキルも必要になってくるのが今後の、いや今でも設計者の宿命だと思います。

とてもやりがいのあるポジションの自動車設計者。

ちなみに私は自動車メーカーから医療機器メーカーに転職したのは、単に医療系の会社で仕事がしてみたかったから。ポジティブな理由です。

今でも自動車設計は楽しかったな、と思っています(もちろん辛いこともありますが)。

あなたの参考になれば嬉しいです。

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